【ハリマヤ】いだてん金栗四三と播磨屋黒坂辛作が生み出した金栗足袋。発祥の地の石碑は何を物語っているのか？

石碑「金栗足袋発祥之地　黒坂辛作」

「金栗足袋発祥の地」その石碑はどこに？

2019年NHK大河ドラマ「いだてん～東京オリムピック噺」。
主人公は「日本マラソンの父」金栗四三さんです。

「日本マラソンの父」金栗四三

金栗さんは、日本人初のオリンピック選手として、1912年ストックホルム五輪のマラソンに出場、足袋を履いて走りました。
その足袋を作ったのが、「播磨屋足袋店」の店主・黒坂辛作さんでした。

ハリマヤ創業者・黒坂辛作

その後、黒坂さんと金栗さんはマラソンを走る足袋を共同開発、1919年頃には進化したマラソン足袋「金栗足袋」が誕生しました。
以来、1950年頃までは、日本の歴代ランナーたちが「金栗足袋」を履いて五輪や世界大会のマラソンを走り活躍する時代がつづきました。

（左上）1936年ベルリン五輪マラソン優勝の孫選手が履いた金栗足袋。（右下）1951年ボストンマラソン優勝の田中選手が履いた金栗足袋。写真は1989年度版ハリマヤカタログから。

播磨屋足袋店は、戦後にはシューズメーカー「ハリマヤ」に発展。
足袋を原点に持つハリマヤのシューズは日本人の足によく合いました。
また靴職人たちの高度な技術は他メーカーの追随を許さず、国産にこだわるハリマヤの良質なシューズは、長年にわたり陸上競技選手やランナーたちを魅了しつづけました。

ハリマヤをより詳しく↓

しかし、1990年頃にハリマヤは倒産、忽然（こつぜん）と姿を消しました。

伝説となった「ハリマヤ」。
今も、東京の「ある場所」に、「金栗足袋」を生みだした黒坂さんの偉業をこの世にとどめる記念の石碑が残っていると聞きます。

そのメールの送り主は？

2018年1月某日。
川見店主に一通のメールが届きました。

川見さん、はじめまして。

私は文京区大塚に住む黒坂辛作の曾孫にあたる者です。

曾お祖父さんの事を新聞でお話してくださり、とても感謝しています。

文京区役所で金栗四三さんや播磨屋足袋店の事をもっと広めていこうと言うことで、家から写真と四三さんの書いた色紙などを展示資料としてお貸ししました。

関西にも行くことがあるので、その時は是非オリンピアサンワーズに寄らせていただきたいと思います。

――＜UTより＞

川見店主からの返信
「私たちはハリマヤを忘れない」

メールの送り主＜UTさん＞は、なんと黒坂辛作さんの曾孫さんでした。
しかし、川見店主は7年前にも、同じく黒坂さんの＜曾孫＞であるという人物＜FTさん＞からも手紙をもらい、黒坂さんの偉業を伝える貴重な資料などを譲り受けていました。
・資料１：1936年の新聞記事
・資料２：1954年の新聞記事

どうやら、今回の曾孫＜UTさん＞と、7年前の曾孫＜FTさん＞とは、別の人物のようです。

川見店主は、早速にお返事を書きました。

＜UTさん＞、はじめまして。
メールありがとうございました！

当店とハリマヤとのつながりは、1970年頃からです。
オリンピアサンワーズの創業者・上田喜代子が、ハリマヤのシューズに惚れ込み、関西ではじめてハリマヤの商品を流通・販売したのです。

ハリマヤのシューズは最高でした。
どれほど多くの陸上選手が、ランナーが、ハリマヤのシューズで走る喜びを感じたことでしょう。
ハリマヤとともに、青春を謳歌したことでしょう。
ハリマヤがなくなって30年近く経ちますが、私たちはハリマヤを忘れたことはありません。
今もオリンピアサンワーズには、ハリマヤを愛する人たちから、たくさんのおたよりが届きます。

ハリマヤ愛あふれるたくさんのおたより↓

今から7年前の2012年。
ハリマヤのことを当店のブログに紹介していたところ、＜UTさん＞と同じく黒坂さんの曾孫である＜FTさん＞からご連絡をいただきました。
そして、黒坂辛作さんに関する貴重な資料を送っていただきました。
同年末には、私がテレビ番組「開運！なんでも鑑定団」に出演し、金栗四三さんのマラソンシューズを鑑定する機会に恵まれました。

川見店主が鑑定した「金栗四三のマラソンシューズ」
くわしくは、こちらのサイトで

また、ハリマヤのことを、ホームページやブログで紹介しつづける中で、私が他のメディアでも紹介されたり、NHKドラマ「いだてん」の制作に協力させてもらったりと、貴重な経験をさせていただいており、感謝に堪えません。
今後とも何とぞよろしくお願いいたします。

「いだてん」制作に協力した話↓

黒坂辛作と「石碑」の真実

川見店主が返信をすると、＜UTさん＞からも、ふたたびメールが届きました。

そこには、黒坂辛作さんに関する貴重な逸話と、あの「石碑」に関する、驚くべき事実が記されていました。

川見さん、ご返信ありがとうございます。
お店のホームページやブログも読ませていただきました。
親族以上に黒坂辛作さんの事を思っていただいて、大変嬉しく思うと同時に目頭が熱くなりました。

母から聞いた話によると、辛作さんは兵庫県姫路市の生まれで、丁稚奉公の先が足袋屋だったそうです。大変自分に厳しい人で、足袋を作ってる最中に、眠たくなると自分の足に針を指してまで足袋作りをしていたそうです。
辛作さんは文京区大塚で火消し屋の娘のてふ「おちょう」さんと出会い4人の子供を授かりました。
＜FTさん＞は長女の孫で、私は次男の孫です。

長男の勝蔵さんは、おちょうさんの母方の養子になったので名字が違うのですが、辛作さんの跡を継いで播磨屋の社長になりました。
私のお爺ちゃん黒坂長次郎は、お兄さんに尽くして、頑張っていたそうです。
残念ながら、会社は倒産してしまいましたが、またこうして川見さんが辛作さんの事を広めてくださったおかげで、私や親族達も、明るい気持ちになる事ができました。

さて、実は私が住んでいる場所は、その昔、播磨屋足袋店があったところなんです！
辛作さんは長次郎お爺ちゃんと住んでました。
そして家の前を金栗さんがよく練習で走ってたそうです。
私の住むビルの側面には、今も「金栗足袋発祥之地」という石碑が設置されてます。
37年前（1982）、ビルを建てる時に、長次郎お爺ちゃんが辛作さんの事を想って付けたそうです。

＜UTさん＞宅の側面に設置された「金栗足袋発祥之地」石碑

金栗四三が石碑を見にきた！

なんと、あの「金栗足袋発祥之地」の石碑は、＜UTさん＞のご自宅の側面に設置されていたのでした。

＜UTさん＞と川見店主は、その後もメールでのやりとりを繰り返しました。
その中で、黒坂辛作さんがお生まれになったのが明治14年（1881）11月24日であったこと、また、お亡くなりになったのが昭和41年（1966年）3月31日であったことがわかりました。

先日も、＜UTさん＞から、こんなメールと画像が。

川見さん、こんにちは！
昨日の夜、家の外が騒がしくなり、なんだろうと思って子供たちと一緒に見にいくと、石碑を見てる団体がありました。
ひとりの男性が子供たちに、
「ドラマの『いだてん』見てる？僕、金栗四三だよ！」
と声をかけてくれました。
なんと、中村勘九郎さんが石碑を見に来てくれてたのです！
雨の中、傘を下ろして気さくにカメラ対応してくれた勘九郎さん。
なんだか本当に金栗四三さんとお話できたみたいで、嬉しかったです！

その石碑に刻まれたものとは？

1903年に黒坂辛作さんが創業した「播磨屋足袋店」は、1948年には辛作さんの長男である勝蔵（かつぞう）さんが事業を受け継ぎ、「ハリマヤ運動具用品株式会社」となりました。
次男・長次郎さんは、きっと、父・辛作さんの偉業を誇りに思いながら、父の仕事を継いだ兄・勝蔵さんに尽くしておられたことでしょう。

石碑をよく見ると、「金栗足袋発祥之地　黒坂辛作」の文字の右下には、
「長次郎印」
と小さく彫り刻まれていることがわかります。
父・辛作さんの偉業をこの世にとどめんとした子・長次郎さん。
この石碑には、黒坂さん父子の「誇り」が刻まれていたのですね。

石碑の写真はすべて、＜UTさん＞よりご提供いただきました。
感謝申し上げます。ありがとうございました。
いつか、私たちも、日本のランニングシューズの源流となったこの場所を訪れたいと思います。

「黒坂辛作」の文字の横には「長次郎印」と刻まれている

（おわりです）

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