お母さんは朝から走っている 今から30年近くも前の話。 ある大学の学生たちがよく来店していた。 気のいい青年たちだった。 彼らは川見店主によく言った。 「よかったら練習を見に来てくださいよ」 その大学は、川見店主の自宅近くにあった。 大学の敷地内には土の400mトラックもある。 川見店主は顔を出してみることにした。 そこである女子学生と男子学生に出会う。 女子学生は400mの選手だった。 彼女が走る姿を見て、川見店主はキレイなランニングフォームだと思った。 男子学生はやり投げの選手だった。 しかし、練習の合間には、その筋肉隆々のカラダで走り高跳びなんかも軽々とやってのけて、チームメイトを喜ばせていた。 彼の器用さが川見店主には印象に残った。 その後、彼女と彼は結婚する。 子供は3人生まれた。 お母さんとなった彼女は、育児が落ち着いた頃にふたたび走りはじめた。 フルマラソンにも挑戦。 タイムは走るたびに更新された。 自己ベスト記録は3時間07分。 毎年1月開催の大阪国際女子マラソンがシーズンの勝負レースになった。 こんな笑い話。 日曜日の朝、子供たちが目覚める頃にはお母さんの姿は家にない。 彼女はすでに走りに行っている。 子供たちにとっては、それが普通の「日曜の朝」になっていた。 だから彼らは思っていた。 どこの家のお母さんも「日曜の朝」は早くから走っているものだと。 大きくなって学校の友達にこんな風に言われるまで気づかなかった。 「そんなことをしてるのはお前んちのお母さんぐらいだ」 お父さんとなった彼も、最近になってマスターズでふたたびやりを投げはじめた。 県の陸上競技大会なんかでは高校生に混じって試合に出場、ビッグスローを見せて周囲の度胆を抜いている。 高校生たちはあっけにとられて言う。 「おい、あのすごいおっちゃんは何者なんだ?」 今、子供たちは理解している。 フルマラソンを3時間ほどで走るお母さんや、やりを投げるお父さんは、そうそういない。 そんな両親を持つのは、やはり周囲では「自分ち」ぐらいのようだ。 そして、それはどうやら誇らしいことでもある。 ***** 本日のお客様は、千葉県からお越しのHさんご夫妻です。 りょーいちさん、ヨシエさん
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