その日、彼女は人生が変わる運命的な出会いをした~オリンピアサンワーズ物語(第6回)
(連載:第6回)
彼女は相変わらず「ぼんやり」していた。
「中学生の時は、先生に連れて行かれた試合で3位になり、私はあの表彰台に上ったのだ」
自分のいない表彰台を見つめる彼女の胸に、はじめて「悔しい」という感情が芽生えた。
その日から、彼女は変わりはじめた。
「なにあの子、急にがんばりはじめてさ」
そんな心無い言葉を同級生から投げつけられても、彼女は気にも留めなかった。
◆◇◆
その日が「4月25日」だったことを、彼女は一生忘れないだろう。
◆
彼女は女子高校に進学した。
やりたいことは何もなかった。
部活動も考えていなかった。
陸上部に素敵な上級生がいた。
すらっと高い身長、小顔にショートカットが似合う優等生。
女子校のヒロイン的な存在で、下級生の誰もが憧れをもっていた。
そのヒロインが、彼女を陸上部に勧誘しに教室へとやってきた。
同級生たちは、羨望の眼差しを彼女に向けた。
彼女は悪い気はしなかったので、すすめられるままに陸上部に入部した。
彼女は相変わらず「ぼんやり」していた。
部活動もそれほど熱心ではなかった。
合宿に行っても体調を崩して寝込んでいるような有様だった。
専門種目にしていた走り高跳びでは何の結果も残せなかった。
顧問の先生には「種目を短距離に替えなければクラブを辞めさせる」と叱られた。
こうして彼女は短距離走に転向。
こうして彼女は短距離走に転向。
高2の秋、大阪府下の私学大会で200mに出場すると意外と健闘し予選突破、決勝では4位に入賞した。
しかし、表彰台には上れなかった。
彼女はふと思い出した。
「中学生の時は、先生に連れて行かれた試合で3位になり、私はあの表彰台に上ったのだ」
自分のいない表彰台を見つめる彼女の胸に、はじめて「悔しい」という感情が芽生えた。
その日から、彼女は変わりはじめた。
放課後の部活の練習が終わっても、独りグラウンドに残り、黙々と走りつづけた。
彼女は強くなるために、一瞬たりとも時間をムダにしたくなかった。
授業の合間の休憩時間も練習にあてようと、校舎の階段をかけ上り、かけ下りた。
通学時間でも筋肉を鍛えようと4.0kgの砲丸をカバンの中に入れて歩いたりした。
そんな心無い言葉を同級生から投げつけられても、彼女は気にも留めなかった。
ひとり猛然と練習に励む日々が半年ほどつづいた頃、試合で親しくなった友人が「本気で陸上競技をしているのなら」と、彼女をある店に連れていった。
◆
また、会いにいきたい人
店の中には、メガネをかけた、やや小太りな女性がいた。
女性は事務机に向かって座り、たばこをふかしながら、彼女に質問をした。
種目は?記録は?お父さんの仕事は何?
彼女は訊かれるままに、こたえた。
女性は言った。
「ちょっと足見せてみ」
彼女は靴を脱いだ。
女性はじっとその足を見て、言った。
「あんたのクツは、その棚のそこにある、それやな」
言われるままに、彼女は棚から箱を選び、中からスパイクシューズを取り出して足を入れた。
女性は吸いかけのたばこを灰皿でもみ消すと、椅子から立ち上がった。
彼女の前に身をかがめ、ちょんちょんとつま先に触れた。
「よっしゃ、これでええ。あんたのスパイクはコレ」
たったそれだけの出来事だったが、彼女は直感した。
「この人は私のことを、とても大事に思ってくれている――」
女性は事務机に向かって座り、たばこをふかしながら、彼女に質問をした。
種目は?記録は?お父さんの仕事は何?
彼女は訊かれるままに、こたえた。
女性は言った。
「ちょっと足見せてみ」
彼女は靴を脱いだ。
女性はじっとその足を見て、言った。
「あんたのクツは、その棚のそこにある、それやな」
言われるままに、彼女は棚から箱を選び、中からスパイクシューズを取り出して足を入れた。
女性は吸いかけのたばこを灰皿でもみ消すと、椅子から立ち上がった。
彼女の前に身をかがめ、ちょんちょんとつま先に触れた。
「よっしゃ、これでええ。あんたのスパイクはコレ」
たったそれだけの出来事だったが、彼女は直感した。
「この人は私のことを、とても大事に思ってくれている――」
帰り道、 彼女は思っていた。
あんなに心の大きな人には出会ったことがない。
あんなに心の大きな人には出会ったことがない。
これまで生きてきた自分の世界はすべてウソで、あの人のいる世界こそがホンモノだ。
「また、あの人に、会いに行きたい」
彼女の胸はずっと高鳴っていた。
昨日までの自分がちっぽけに思えた。
明日からの新しい自分を予感した。
そして、彼女は思い出した。
「あ、今日は、私の――」
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オニツカの「Tiger」の文字もくっきりかたどられている。 |
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アウトソール部分にも「Onitsuka Tiger」の文字。こだわってますね。 |
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どんな風にバッグにつけていたのか川見店主に聞いた。川見店主はミニチュアシューズを手にすると、片方だけをバッグにつけた。ボクがもう片方も一緒につけようとすると「わかってないなぁ。片方は彼氏が、片方は彼女がつけるの!だから、ひとつしかつけなの!」だそうです。 |
(つづきます)
オリンピアサンワーズの物語を全部読む↓
・第1回「創業日1963年9月8日」の謎・第2回「ジャガーに乗って会社に通勤していた女性が陸上競技専門店を創業した理由」
・第3回「ニシのおばちゃんは簡単には店に入れてくれなかった」
・第4回「店主が客の欲しがるシューズを売らない理由」
・第5回「速記部の彼女が陸上部の卒業写真におさまった理由」
・第6回「その日、彼女は人生が変わる運命的な出会いをした」
・第7回「なぜ彼女は教師を辞めて、パートの皿洗いをはじめたのか?」
・第8回「彼女は次代へのカギを渡された」
・第9回「彼女は恐れていたその場所に座った」
・第10回「太陽は沈もうとしていた」
・第11回「彼女は創業者の心を追い求めていくと決めた」
・第12回「太陽はふたたび昇っていく」
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